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東京高等裁判所 平成7年(ネ)4616号 判決

控訴人・附帯被控訴人

関根輝男

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人(原告)

海老原司

ほか二名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人らは、各自、被控訴人海老原司に対し金五六五万五七八二円、同洋子に対し金四七一万二八八二円、同直子に対し金一八八四万一五二八円及びこれらに対する平成五年九月一八日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。

三  控訴につき訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その三を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とし、附帯控訴につき訴訟費用は附帯控訴人らの負担とする。

四  この判決は、第一の1につき仮に執行することができる。

事実

第一  双方の申立て

一  控訴人ら・附帯被控訴人ら(以下、「控訴人ら」という。)

(控訴の趣旨)

1(一) 原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(附帯控訴の趣旨に対する答弁)

1 附帯控訴を棄却する。

2 附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら・附帯控訴人ら(以下「被控訴人ら」という。)

(控訴の趣旨に対する答弁)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

(附帯控訴の趣旨)

1 原判決を次のとおり変更する。

附帯被控訴人らは、各自、

(一) 附帯被控訴人海老原司に対し金一〇〇〇万円及びこれに対する平成五年九月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

(二) 附帯被控訴人海老原洋子に対し金八〇〇万円及びこれに対する平成五年九月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

(三) 附帯被控訴人海老原直子に対し金三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年九月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

各支払え(以上、当審における請求の一部減縮)。

2 訴訟費用は、第一、二審とも附帯被控訴人らの負担とする。

3 仮執行の宣言

第二  本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」と同一であるから、これを引用する

一  原判決四丁裏二行目の「認識しながら、」の次に、「自らの意思で積極的に、ヘルメットを着用することなく、マフラーの切断された改造車である」と加入する。

二  同丁裏四行目の末尾に続けて、「修理工として車両のことを熟知している亡伸輝の右行為は、運転者と同程度の過失があるといわざるを得ず、五〇パーセントを下らない減額が相当である。また、好意同乗の場合の減額割合は事故の相手方に対する減額割合ともなるべきであり、本件では、前記事実に加え、亡伸輝は、訴外岩井との関係からみて、本件自動二輪車は任意保険はもちろん自賠責保険にも加入しておらず、したがつて、事故発生時には十分な補償が得られないことを承知していたと思われるから、訴外岩井との関係で五〇パーセントを下らない減額が相当であり、控訴人らとの関係でも、信義則上、同程度の減額が相当である。」と付加する

三  同丁裏五行目の「4 損害額(原告らの主張は別紙損害金計算書1のとおり。)」とある部分を次のとおり変更する。

4 損害金

(一)  逸失利益 五九〇五万八四一七円

亡伸輝は、高校卒業後、三菱自動車整備学校において自動車整備技術を修得し、同校終了後、千葉三菱コルト自動車に入社し、三年余後、同社を退職して、平成五年五月から、父親の被控訴人司が代表取締役である有限会社海老原興業に入社し、本件事故当時は、同社の社員として、いずれは父親の跡を継いで、同社並びに株式会社えびはらの経営者となるべく社業にいそしむ毎日を送つていた昭和四四年一一月一一日生まれの健康で真面目な青年であつた。

亡伸輝の本件事故発生日の属する年の前年である平成四年度の所得は三五六万四三八一円であるが、同人は、右のとおり、いずれは有限会社海老原興業並びに株式会社えびはらの経営者となるべく若くして父親の後継者に擬せられていたので、就労可能期間である満二三歳から満六七歳までの四四年間、毎年、少なくとも賃金センサス平成六年第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の全年齢平均年収額である五五七万二八〇〇円以上の収入をあげ得たものと推認される。亡伸輝は、本件事故発生当時、被控訴人直子との婚姻を届け出たばかりの新婚家庭における一家の支柱たるべき存在であつたので、生活費控除割合は四〇パーセントとするのが相当である。以上を前提に、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故発生当時の亡伸輝の逸失利益の現価を算出すると、五九〇五万八四一七円となる。

(二)  慰謝料 二六〇〇万円

亡伸輝は、父・被控訴人司にとつては自己の後継者として、母・被控訴人洋子にとつては大事に慈しんで育てあげた息子として、妻・被控訴人直子にとつては婚姻の届け出をしたばかりの新婚家庭における一家の支柱として頼りにしていた最愛の夫であり、その各悲哀・苦悩は測り知れないものがあると共に、弱冠二三歳の青年で将来を嘱望されていた亡伸輝にとつては、輝かしい未来や将来の夢・希望等を一挙に奪われた無念さは、想像に絶するものがある。

(三)  相続

被控訴人らは、亡伸輝が取得した本件事故に基づく損害賠償請求権を法定相続分に従い、被控訴人司と被控訴人洋子は、各六分の一宛の割合で、被控訴人直子は三分の二の割合で相続した。

(四)  葬儀関係 三五一万〇四四一円

被控訴人司は、亡伸輝の葬儀を営み、同人のために新たに仏壇を購入し、墓石を建立する等して、合計三五一万〇四四一円の支払いを余儀なくされた。

(五)  死体検案料 三万五〇〇〇円

被控訴人司は、亡伸輝の死体検案料として松田医院に三万五〇〇〇円を支払つた。

(六)  損害の填補

被控訴人らは、自賠責保険として三〇〇〇万一六〇〇円の支払いを受け、内金五〇〇万一六〇〇円を被控訴人司の損害に、内金五〇〇万円を被控訴人洋子の損害に、内金二〇〇〇万円を被控訴人直子の損害に各充当した。

(七)  弁護士費用

被控訴人らは、同訴訟代理人に対し、弁護士報酬金(着手金及び成功報酬)として、合計四八〇万円の支払いを約し、各自が法定相続分の割合で負担とすることを合意している。

(八)  一部支払請求

被控訴人司は、以上の損害金合計一三五二万〇二四三円のうち一〇〇〇万円、被控訴人洋子が同九九七万六四〇二円のうち八〇〇万円、被控訴人直子が同三九九〇万五六一一円のうち三〇〇〇万円及び各金員に対する本件事故の発生日である平成五年九月一八日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める(当審における請求の一部減縮)。

5 損害の主張に対する控訴人らの答弁

被控訴人らの主張事実のうち、(三)の相続関係及び(六)の損害の填補のうち、被控訴人らが自賠責保険金として三〇〇〇万一六〇〇円の支払を受けたことを認め、同(一)の逸失利益のうち、算定の基礎は、原則として現実収入によるべきであり、亡伸輝や被控訴人司の年齢、長男・学の存在等に照らし、亡伸輝が後継者にならないことも十分に考えられ、現実の収入を上回るほどの収入を得られることが確実に予測しうるとは言えないから、現実収入である年収三五六万四三八一円によるべきであり、そうでないとしても、賃金センサスは、企業規模計は「10~99人」欄を、学歴計は「高専・短大卒」欄を適用すべきであり、同(二)の慰謝料額は、亡伸輝の被扶養者は被控訴人直子のみであり、被控訴人ら全員との関係で一家の支柱であつたとはいえないから、せいぜい二〇〇〇万円が相当であり、同(四)の葬儀費用が本件事故と相当因果関係のあることを争い、その余の各主張事実いずれも知らない。

理由

第一  当裁判所は、被控訴人らの本件各請求は、控訴人ら各自に対し、被控訴人司が五六五万五七八二円、同洋子が四七一万二八八二円、同直子が一八八四万一五二八円及びそれぞれ各金員に対し平成五年九月一八日から各支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求部分(請求の一部減縮後)は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」の説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決五丁裏一行目の「本件自動二輪車」の次に、「(対面信号が赤色の点滅)」を加入する。

二  同七丁表六行目の末尾に続けて、「なお、前掲各証拠によると、亡伸輝がヘルメットを着用していなかつたことは認められるが、その死因が内臓破裂であつて、ヘルメット不着用が損害の発生・拡大に寄与したものとは窺えないから、これを過失相殺の要因とすることは相当でない。

控訴人は、亡伸輝が本件自動二輪車の運転者である訴外岩井の過失と同程度の過失があると主張するところ、訴外岩井が本件事故を記憶していないこともあつて、本件自動二輪車の対面信号が赤点滅であつたことのほかは一時停止を含む運転方法等は確定できないが、同乗者であつた亡伸輝が訴外岩井の具体的な運転方法について支配を及ぼしうる状況にあつたものとは窺えないから、亡伸輝において外形的に事故発生の危険を予測できたと推認できる前記限度の事項を過失相殺の要因とするのが相当する。

また、控訴人は、好意同乗の場合の減額割合は事故の相手方(加害車)に対する減額割合ともなるべきであると主張するけれども、好意同乗による減額は、当該車の運転者と同乗者との関係を理由とするものであつて加害車との関係で考慮するのは相当でなく(加害車と被害車との間の求償関係で調整すべきである。)、公平の観点から、被害者側の過失のうち、事故原因及びこれにつながる事項について被害車の同乗者にも帰せしめるのが相当であると認めることのできる範囲に限定されるべきである。そして、本件において、その範囲は、右述の事項及び限度であると認めるのが相当である。

さらに、本件全証拠によるも、亡伸輝が万一事故が発生しても十分な補償が得られないことを承知して、これを容認していたとの事実は認めることはできない。

なお、前掲乙一号証、控訴人関根輝男の供述によると、控訴人関根は、重量一〇トンの本件貨物自動車に一〇トン前後の荷物を積載(総重量二〇トン前後)して、総重量一五トン規制(通行許可時間六時から七時、八時三〇分から二〇時)のある長門橋を通過して本件事故現場に至つたことが窺われるけれども、凡そ車両の通行が全面的に禁止されていた状況にあつたものとは認められないうえ、本件事故は、前記のとおり、控訴人関根において黄色の灯火が点滅している見通しの悪い(乙一号証)交差点を通過する際の注意義務に違反したことが原因で発生したものであつて、同控訴人の前記違反行為は本件事故現場に至る前の途中経過における交通違反であるに過ぎず、本件事故の発生と直接関連があるとは認められないから、これを被控訴人らに有利な過失相殺の減殺要因として考慮することは相当でない。」を加入する。

三  同八丁表五行目冒頭から七行目冒頭の「一四〇〇円」までを「高校卒業後、自動車整備専門学校卒業の学歴を持つ亡伸輝が、全就労可能期間中、少なくとも、同程度の学歴を持つ男子が平均的な企業に就職し、得るであろう平均的な賃金と同程度の賃金を得ることができたものと認めることができる。

そこで、基本となる収入は賃金センサスによることとなるが、亡伸輝のように残存稼働可能期間が長い場合に死亡時の年齢に対する収入に固定するのは相当ではなく、また、高卒及び専門学校卒の亡伸輝について学歴計(旧大・新大卒)の賃金を加味した学歴計を採用するのも相当でない。

そして、逸失利益の算出は、年齢区分による収入につき各個別に事故時の現価を算出して加算する方法ではなく、平均年齢の賃金を稼働期間中に亙つて得るものとしてその現価を算出する方法によることとするが、甲三四号証によると、平成六年度(亡伸輝の死亡時は平成五年九月一八日で、同年末までは平成五年度を採用すべきであるが便宜同六年度を採用する。)賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、男子労働者、学歴計(高専・短大卒)の平均年齢の賃金は、年額四八六万一三〇〇円であり、同学歴計(旧中・新高卒)の平均年齢の賃金は、年額五二四万三四〇〇円であることが認められるところ、高卒あるいは専門学校卒のいずれかの学歴別の平均年齢の賃金を採用する場合は、年齢構成の関係で低くなる専門学校卒の平均年齢の賃金よりは賃金額の高い高校卒の平均年齢の賃金を採用するが相当である。

すると、亡伸輝は、少なくとも年額五二四万三四〇〇円」と改める。

四  同丁裏一行目を次のとおり改める。

五二四万三四〇〇円×〇・六×一七・六六二七=五五五六万七五六〇円

五  同九行目の「一九の1ないし3、」の次に「四〇ないし四二、」を加入する。

六  同一〇行目の「九五万七四四一円」から同末行末尾までを「一〇一万二四四一円を支出し、仏壇等に四八万円、墓地墓石に二〇一万八〇〇〇円を要したことを認めることができるところ、このうち、本件事故と因果関係がある損害として訴訟人らに負担させるべき額は、一二〇万円を相当と認める。

また、甲四三号証によると、被控訴人司が松田医院に対し亡伸輝の死体検案料として三万五〇〇〇円を支払つたことを認めること

一二 同一〇丁表三行目の「原告司」から五行目冒頭の「五円」までを「被控訴人各人につき前記7の各金員」に改める。

第二  そうすると、右と一部異なる原判決を変更し、附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、仮執行の宣言について民訴法一九六条、訴訟費用及び附帯控訴費用の負担について民訴法九六条、九五条、九三条、九二条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩佐善巳 山崎健二 彦坂孝孔)

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